信託の効力は遺言より強力


こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


【本日の話題】

信託法が改正される前は、自分が死亡時の財産の分割方法を自分で決める手段は、唯一遺言しかありませんでした。

 

しかし改正信託法の施行により、受益権として財産の分割を決めることができるようになりました。

 

認知症になる前であれば、財産の分け方に遺言又は信託という二つの選択肢があるのです。

 

信託と遺言は全く違う制度であり、特に信託は比較的新しい制度ということもあり、効力の違いをしっかり把握できていない専門家も存在し、トラブルが発生している例があります。

 



認知症リスクは遺言では解消できない。


司法書士のSは、子どものいないAさんから、全財産を妻に相続させたいとの相談を受けました。

 

その際Sは、妻に全財産を相続させるという公正証書遺言の作成をサポートしました。これで、Aさんの相続では、全財産が妻のBさんの所有となることが確定します。

 

【遺言の後に信託】

その後、Aさんは、自分が認知症になったときの財産管理が心配になりました。成年後見人制度の運用(妻のために財産を使うことが難しくなる)や、後見人の報酬などに納得がいかなかったのです。

 

Aさんは、妻Bを受託者、委託者兼受益者を自分とする家族信託を希望し、Sに依頼しました。Sは、家族信託の知識はあまりありませんでしたが、権利関係も単純ですので、Aさんの死亡で終了となる不動産等管理処分信託契約書を作成しました。

 

Sは、Aさん死亡時は信託終了時には、Aさんの財産は遺言により奥さんに相続されると考えていました。

 

Aさんが死亡し、遺言執行者に指定されていたSは、受託者Bさんが受託者として所有者となっている不動産について、信託財産引継ぎによる移転登記をしようとしましたが、登記官に認めてもらえません。

 

信託契約書には、信託終了時の残余財産帰属権利者が指定されたいなかったのです。その場合、信託法182条2項により委託者Aさんの法定相続人が帰属権利者となるのです。

 

結局、Bさんは不動産の3/4の持ち分を取得し、残りの持ち分はAさんの兄弟が有することになってしまいました。

 

【信託財産に所有者はいない】

なぜ、こうなってしまうのでしょうか。

 

遺言は、遺言者の最後の意思が有効となります。遺言で全財産と書いても、その財産を生前に処分した場合には、処分した財産に対しては遺言の効力が及びません。

(相続のときにはその人の財産では無い)

 

所有者は、所有物を自由に処分できますので、遺言の後でも処分は有効にできるのです。

 

家族信託の信託財産とした財産は、死亡時点でAさんの所有財産ではありません。

 

【信託終了時の帰属権利者】

信託契約書作成時には、通常終了した後に残った財産を誰が取得するのかを指定するのが通常です。しかし、これを指定しなくても契約は有効です。上記のように、指定が無い場合の帰属権利者は信託法で定めがあるのです。

 

家族信託の契約においては、自己信託以外は契約条項は決められていません。(自己信託においては、必要な条項が決められています。)

 

つまり、どのような契約とするかは全くのフリーハンドとなっています。民事信託(家族信託)は、新しい制度でもあり法律や記入の専門家でも知識の少ない方が多くいます。そして、契約の不備による問題が発覚するのは、多くが契約から年月が経ってからです。

 

信託を依頼するときは、信託を専門的に取り扱う事務所に頼みましょう。


なぜ信託を勧めるのか。

スライドで説明します。

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