こんにちは、「民事信託・相続コンサルタントしゅくわ事務所」
代表の宿輪です。
弊所は、開業以来相続専門の事務所としてたくさんの相談者の方からお話を聞いてきました。相続は、すべての人が当事者となる法律行為ですが、その内容を知る人は少ないのが現実です。知らないがゆえに、相続時にトラブルとなり、最悪の場合は親族間に遺恨を残す「争族」となってしまいます。
少しの知識があれば、トラブル発生となる前に対策が可能となります。「信託情報」では、皆さんに知っていただきたい信託の知識をランダムに解説しています。ぜひお役に立ててください。
弊所では、民事信託(家族信託)も積極的に取り扱っています。遺言などこれまでの民法では解決できなかった問題がクリアにできます。☞に小冊子ダウンロード版を用意していますのでご利用ください。
民事信託を勧める理由を、スライドを使って説明してみました。☞のユーチューブ動画も見ていただけると嬉しいです。
では、信託情報をどうぞ!
信託契約を締結し、信託財産となった財産は元の所有者の相続財産ではなくなります。
相続財産ではありませんので、法定相続人の遺留分はどうなるのかが問題になりますが、2018年9月に東京高裁で「受益権に対して遺留分が発生する」という判断がされました。
これまでは、遺留分減殺請求により受益権の利留分割合を取得することになりました。
2019年7月から、改正相続法により遺留分は金銭により請求することになりました。
では、遺留分として支払うお金が無い場合にはどうなるのでしょうか。
【改正相続法の目的】
一番の目的は、土地の流通です。
留分請求されると、持分が遺留分権利者に与えられますので、共有ということになります。
共有の不動産を処分するときには、共有者全員の同意(≒ハンコ)が必要です。わずかな割合の持ち分所有者一人が、ハンコを押さなければ、不動産の処分ができないのです。
遺留分減殺請求される場合には、人間関係が良くないことが多いので、このような共有となった不動産は、処分が困難になりさらに相続などが発生することでいわゆる「所有者不明土地」になってしまうのです。
これを回避するため、遺留分はお金で解決し不動産が共有になることを減らそうとしているのです。
【受益権の遺留分】
相続財産が自宅の土地建物や代々受け継いできた田畑で、金銭はあまりないという方は多いと思います。
この不動産を散逸させないよう、相続人の一人に受益権として移動させる信託は、委託者の希望を叶える有効な手段となります。
そして、万一他の相続人から遺留分を請求させれたら、受益権をその割合取得させることで解決することにありました。受益権を遺留分として取得させても、管理処分は受託者1人のハンコでできるので、所有者不明土地にはならなくて済むのです。
しかし、改正相続法ではお金で払わなくてはなりません。
【金銭支払いに代えて受益権で払えるか❓】
遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と名称も替わり、お金で払うことが原則となりました。
受益権の評価額は、不動産であればその時価額となります。
不動産の評価額は、場所によっては高額になっている場合もあります。
例えば、評価額1億円の土地の受益権から1/4を侵害額としたら、2,500万円を金銭で支払うのです。
金銭を用意できない場合に、これまでのように受益権を取得させることができるのでしょうか。
できます。しかし、これまでとはその扱いが大きく異なります。
令和元年6月28日 国税庁法令解釈通達「遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払いに代えて行う試算の移転」から抜粋
-金銭の支払いに代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当すTる価値により当該資産を譲渡したことになる。-
【受益権を金銭の代わりに取得させる】
改正相続法では、遺留分は金銭で払うのが原則です。
それを受益権で払うという行為は、代物弁済ということになります。
上の例でいうと、2500万円の代わりに受益権1/4を譲渡したことになるのです。
ここで問題は、この取引に譲渡に係る所得が発生し、課税されるということです。
受益権(≒土地)の1/4を2,500万円で譲渡したとみなされ、取得価格と譲渡価格の差が譲渡所得として課税対象になります。
代々受け継いだような土地は、取得価格不明です。取得価格不明の土地は評価額の5%が取得価格として計算されます。その結果、受益権1/4を遺留分侵害額請求権者に支払った受益者に、2,375万円の譲渡所得があったものとして、470万円近くの譲渡所得税が発生するのです。
これまでは、遺留分を請求されても受益権で決着し、金銭は必要ありませんし課税も発生しませんでした。しかし、これからは遺留分を請求されたときの対策をこれまで以上に慎重に検討する必要が出てきたと言えるでしょう。