後見制度支援信託


こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


後見制度支援信託は敵か味方か?

後見制度支援信託という制度は、民事信託(家族信託)とは全くの別物です。

 

成年後見制度は2000年に始まりました。当初は後見人の9割程度は親族でした。

 

しかし、親族後見人による横領事件が多発したこともあり、親族後見人は裁判所により指定が難しくなっています。最新のデータでは親族後見人は、22%まで低下しています。親族を後見人候補として請求しても、裁判所の判断で専門職(司法書士・弁護士など)が指定されるのです。

 

ところが、専門職後見人による横領事件が発生することとなり、これを防止するための制度として始まったのが「後見制度支援信託」です。


【後見制度支援信託の制度概要】

後見人の財産のうち預貯金を解約し、解約した金銭を信託財産として後見人と信託銀行が新tなく契約を締結します。銀行のチェックが入り後見人による横領を防ぐのです。

 

後見人の横領ということは、裁判所が指定した後見人が犯罪行為をするということです。裁判所には任命責任がありますので、何としても避けたいのです。そのため、被後見人の金融資産が1000万円や500万円(裁判所により異なる)を超える場合には、裁判所がこの信託を勧めています。専門職後見人は、基本的に裁判所の意見には従います。

 

ということで、成年後見を裁判所に請求すると、専門職後見人を付けられ、その預貯金は成年後見制度支援信託により信託財産とされることが普通になっているのです。

 

【成年後見制度支援信託の問題点】

成年後見制度支援信託も民事信託と同じく、信託法により運用されます。信託財産となった金銭は所有者のない財産となり、信託口口座で管理されます。受託者は信託銀行です。

 

金銭の給付が必要なときは、後見人が被後見人の代理人として銀行に請求します。専門職後見人の金銭管理事務はいくら軽減され、横領などの発生も抑えられることにはなります。

 

問題は、成年後見人が本人の遺言の有無に関係なく、本人の財産を処分できるということです。被後見人の意思能力がない状態で始まる制度ですので、本人の意思ではなく後見制度のルールにより管理処分がされるのです。一応、後見制度支援信託は「本人に遺言がある場合には利用されない」ことにはなっていますが、後見人が本人に遺言があることがわからないことが多いのです。

 

その結果、遺言により分割方法を指定していた財産が存在しなくなってしまう恐れが出てきます。

 

同様に、遺言信託を作成していた場合には、信託財産とする予定の金銭が不存在となり、信託設定ができなくなってしまいます。

例)遺言信託により「○○銀行○○支店の預金を信託財産とする。」

  ➢後見制度支援信託により口座が解約され、信託口口座へ移される。

   被後見人死亡時には信託財産とする予定の口座は存在しない。

 

【遺言信託の対策】

遺言信託と同時に、本人が後見人およびその代理権の内容を指定する「任意後見」を締結します。遺言信託が支障なくスタートできるように、任意後見の内容を考えることができます。

 

遺言信託の内容を人に知られたくない場合には、任意後の締結は難しくなります。その場合には、信託条項により対策をします。遺言信託をした者の預貯金が、後見制度支援信託で信託財産とされた場合には、その信託契約の残余財産である金銭について、遺言信託の信託財産として注ぎ込む定めをするのです。

 

後見人が銀行と信託契約をする際には、残余財産の帰属権利者を決めることはできません。ですから、後見制度支援信託終了により委託者またはその相続人に帰属することになります。残余財産の処分方法を遺言信託で指定するのです。

 

遺言信託を作成した後、遺言者の意思に関係なく後見人がついた場合でも、遺言者の意思による信託がスタートできるように対策をしておきましょう。