教育資金援助。贈与税特例か民事信託か?

こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


教育資金。贈与税特例か民事信託(家族信託)


今、日本では個人資産の3分の2程度は60歳以上が保有しています。

 

教育資金や住宅資金などで、お金が必要な世代にあまり資産がありません。そこで、高齢者の持つ資産を教育費の確保に苦心する世代の支援に使えるようにと、平成25年から始まったのが「教育資金の一括贈与特例」です。

 

令和3年3月31日までの適用とされていましたが、2年の年長となりました。


【特例の概要】

上記のような目的で、教育資金として子や孫に贈与する場合、1500万円まで贈与税が非課税となります。祖父母から孫への贈与により、親世代を援助するというのが目的に合った使い方です。

 

⑴銀行や信託銀行で信託契約を締結し、口座を開設。

⑵金融機関が税務署あて申告書を提出

⑶受贈者(孫)が教育資金を払い出す

⑷受贈者が領収書等を金融機関に提出

⑸受贈者が30歳で終了し、残額に贈与税が課税される

 

⑷で、領収書等を提出とありますが、非課税となる教育資金であるかどうかを金融機関がチェックすることになります。適用となる費用であるかを確認し、領収書等を確実に管理しなければなりません。

 

授業料や入学金などは非課税となりますが、「学校等」に支払う寄附金は原則として非課税の対象にはなりません。

 

30歳になると、在学中などの場合を除いて終了となり、残額に贈与税が課税されます。

1500万円の一括贈与を受け、1000万円残して終了した場合

贈与税=1000万円×30%-90万円=210万円

帳票等の処理が面倒だからと、一括贈与の資金を使わずに余らせると、贈与税が高額になってしまいます。

 

【2021年の改正】

2021年に2年の延長となりましたが、一部改正となりました。

⑴相続課税

 改正前:贈与者の相続開始前3年以内にされた一括贈与の残額を、相続財産に加算

 改正後:贈与者の相続時点での残額を相続財産に加算(3年以内の制限が無くなった)

 ※受贈者が23歳未満、在学中の場合課税対象にならない(変更なし)

 

⑵相続税の2割加算

 改正前:孫への教育資金残額に課税される場合、相続税の2割加算の対象外

 改正後:孫への教育資金残額に課税される場合、相続税の2割加算の対象

 

【民事信託で教育資金贈与】

上記特例は、教育資金であれば贈与しても非課税にするということが基本ですが・・・

 

実は、祖父母が孫に必要な教育資金を援助するのは、扶養の範囲で非課税となるのです。

必要になった都度、援助(贈与)してあげれば贈与税は掛かりません。将来の分までまとめて援助すれば、贈与税の対象となるのです。

 

しかし、認知症などで意思能力がなくなると法律行為は無効となりますので、孫に教育資金を援助できなくなってしまいます。

 

そこで、民事信託を活用することが考えられます。

 

金銭を子に信託し、委託者本人及び孫を受益者とします。孫が取得する受益権を扶養義務の範囲とすることで、贈与税は掛かりません。

 

万が一、委託者が認知症で意思能力がなくなった場合でも、委託者の生活のため及び孫の教育のために、受託者が金銭の管理,給付を継続できます。

 

さらに万が一、委託者が亡くなった場合でも信託を継続して、孫の教育資金を確保することも可能です。相続手続きも信託財産に関しては不要です。

 

まとまった額の教育資金を一括で贈与しなければならない状況を言うのは、あまりないのではないでしょうか。必要に応じた資金提供を考えると、民事信託での運用が使いやすいように思います。