遺言信託の注意点

こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、

身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。

遺言信託の注意点


生存中の財産管理は問題ないが、

自分が死亡後の(相続人)の財産管理に問題があり、相続財産としての分割ではなく、

信託による管理をしたいという場合があります。

 

・子供がいない

・再婚で、まずは妻に取得させ、妻の死亡後には前妻との子に財産を渡したい

 

などの状況では、遺言信託は効果が見込まれます。

 

しかし、委託者が生存中にスタートする信託契約と違いますので、より慎重に検討する必要があります。

 

 


【遺言は単独行為】

遺言は、遺言者一人の意思で成立します。

財産の分割方法を決めたりすることが多いので、

想定相続人(家族)にも内容を秘密にすることもあります。

遺言の内容が、不満を持つ相続人が出ないようなものであれば、

          相続の手続きも簡単になりますのでいいのですが・・・・

 

相続人が受け入れがたい内容にしていると、かえってトラブルの元になってしまいます。

 

遺言信託の場合は、単なる財産の分割ではなく、

財産の管理処分を信託終了までの期間継続させるものです。

 

関係者の協力なしには成り立たないのですが、上記の様に「単独行為」として信託は組成できてしまいます。

 

委託者が元気なうちにスタートする信託とは違うことを理解して、慎重な組成が必要となります。

 

【遺言信託を選択する理由】

委託者が生存中の財産管理は信託を使う必要が無い。

相続財産を相続時の分割ではなく、信託財産として委託者の希望する方法で運用した後に、分割をしたいような場合です。

 

例えば、負担付き遺言の代わりに遺言信託を使うパターンです。

 

負担付き遺贈の場合は、財産は遺贈された者の所有財産になります。

負担をどのように履行するのかは、受贈者の善意に頼ることになります。

負担を履行しない場合には、他の相続人は裁判所に訴えて履行を請求することはできますが、

なかなかできることではありません。 

 

例)

自分がいなくなった後の妻の生活を安心なものとしたい。

➢妻と同居し老後の生活費を負担することを条件に、自宅不動産と現金3000万円を相続させる。

相続発生後、妻は自宅に居づらくなり、他の子の家に転居した。

母と同居することにした子が「負担を履行していない」として、相続財産を渡すように請求したが、

「私は、負担を履行していたが、母親の気が変わって出ていっただけだから、相続財産は渡さない。」と主張された。

 

この場合、裁判すれば同居する子の主張が認められる可能性はありますが、経済的負担に加え心理的負担が大きく、裁判に訴えるのは困難です。

 

また、裁判の結果がどうあれ、家族の関係がもとに戻ることは期待できません。財産は受遺者の所有となり、遺言者の期待した妻の平穏な老後は達成できません。


【信託で受益者を守る】

上の例で、自宅と現金を信託財産、受益者を母親とした信託を遺言ですれば、母親の生存中は子が受託者や受益者代理人として財産管理を担い、母親の死亡後に残った財産を分割することができます。

 

民事信託(家族の信託)であれば、所有者はいなくなり受益者は利益を受ける権利が担保されます。

受託者がその役割を確実に履行できるような制度(チェックや報告など)を個別に設計します。

家庭の事情に合う制度として信託財産の活用ができるようになります。

 

そして、信託終了時には信託の定めにより、残余財産を分割します。

 

信託期間中に、推定相続人が関わり財産の管理をしていますので、

財産の内容に対する疑義もなく、円満に信託を結了することができます。

 

【遺言信託の注意】

遺言信託は、相手のある契約ではなく、単独行為の遺言ですから、以下の注意点があります。

 

①受託者の理解:遺言は単独行為ではありますが、信託の中心的役割を担う受託者には内容をしっかりと理解してもらう必要がありま

        す。遺言を公正証書とする場合には、証人が立ち会いますが、受託者が推定相続人の場合には証人となれません。

 

②後見人が付く可能性:遺言者(委託者)に後見人が付いた場合、信託財産を処分する可能性があります。委託者が死亡時に、信託財産

           が変わっているかもしれませんので、それに備えた条項を検討。

 

③信託開始までに期間がある:財産の増減や当事者の状況変化(死亡・認知症・引っ越し・転職・・・)に対応できるか。

 

④信託開始時から委託者は存在しない:委託者の地位は相続により承継されない。

                受託者の解任や信託の終了に付き別段の定めをするか否か。

 

⑤信託財産は遺留分の対象となる:遺留分のある相続人に不満が発生しそうな場合は、

                遺留分侵害額請求に対応した対策

 

⑥遺言者が単独で変更や撤回が可能

 

⑦信託口口座開設は委託者死亡後:銀行内の口座開設稟議は委託者死亡後。

                口座開設の達成は不確実。

 

遺言の場合は、専門家のサポートを得て相続人には内容を知らせずに、トラブルに備えることができると思いますが、信託では、関係者に内容を理解してもらわないとトラブルは防げません。

 

可能であれば、遺言信託ではなく信託契約として、委託者が元気なうちに問題なく信託の運用ができることを確認するのが安心だと思います。