あえて信託にしない

こんにちは、信託コンサルタンタントの宿輪です。

 

民事信託(家族信託)は、制度ができてから10年以上経ちますが、実際に使われ出したのは最近の事で、

身近で実例を見た方は少ないと思います。

 

この「信託情報」では、皆様の信託に対する疑問をランダムに取り上げ解説しています。


あえて信託にしない

子の経済状況が良く、万が一親の財産が使えなくなっても、困ることはない状況であれば、わざわざs民事信託(家族の信託)を設定する必要はありません。

 

子の財産で親の生活を守り、相続発生したときに遺産として分割すれば良いのです。

 

しかし、日本では資産の大部分は高齢者が保有していますので、親の財産が使えなくなったとき、子が支えきれない家庭が多いのが現状です。

 

そのとき、後見制度よりも民事信託の方が家族の負担が少なく済みますが、家庭の状況によっては後見制度の利用を進めることがあります。


 

父の財産

・自宅(土地・建物) 1500万円

・現預金       500万円

 

実家は両親の二人暮らし。

両親の面倒は長男が看ています。

実家は、長男長女とも住むつもりはない。

 

このような場合、現預金はあまり多くないので、将来の施設費用などを考えると、信託を組成し自宅を換価できるようにすると安心です。


【長女の協力が得られない場合】

民事信託(家族の信託)は、運営に公的機関や専門家は関与しません。

税金の申告も不要であれば、家族内で完結してしまいます。

 

家族関係が問題なければ、他人に干渉を受けず子が協力して親の生活を守ることができます。

 

 

民事信託(家族の信託)は、委託者と受託者の契約ですから、父と長男の契約で正式に締結することができます。父は、長男に全幅の信頼をよせていますので、特段の制限を付けず長男の裁量で信託財産の管理処分をできるようにしたいと考えています。

 

しかし、上の例で長女が長男,両親と関係が悪い場合どうなるでしょうか。長女は両親,長男とほとんど連絡も取っていません。信託を組成するにあたり、長女に話をすれば話がまとまらないでしょう。その状態で、信託を組成し、両親が亡くなるまで長男が財産を管理します。

 

相続となったとき、長女からすれば、長男が好き勝手に財産を使ったとして不満を持つのは明らかです。長男が適正に財産管理をしていたとしても、長女に納得させるのは困難です。長女には、遺留分がありますので、それをめぐって争いになれば、長男には大変大きな負担がかかります。

 

【ことを荒立てない】

この家庭状況では、民事信託(家族の信託)が争いの元になる可能性が高いと考えます。

なるべく、争いとならないことを重視して、以下のような対策をしました。

 

・信託はしない。現預金がロックされた際には、法定後見を申立てる。

・公正証書遺言を作成。長女の取得は遺留分を切らない程度に抑え、遺言執行者(専門職)を指定する。

・終身保険の受取人を長男として、遺留分対策とする。

 

後見人報酬や遺言執行者の報酬などが発生しますが、なるべく長男に精神的負担が掛からない対策としました。親が認知症となった後の財産管理は、裁判所の管理下ですので長女も文句はいえませんし、遺留分以上の遺産を受け取ればそれ以上の請求はできません。遺産分割の手続きも専門家がしますので、長男が長女に説明等をする必要もなくなります。

 

専門家への報酬が発生はしますが、長男の負担を考えれば次善の策と言えます。