信託以外の選択肢

近年、民事信託がテレビなどでも取り上げられることが増え、「民事信託をお願いします。」と来られる方が増えてきました。
信託を紹介する番組や記事では、信託のいいところを注目した情報発信をします。そして、時間や紙面の制限があるため、他の制度のいいところの話しは省かれてしまうことが多いです。特にSNSなどでは視聴回数を増やすために、短時間で見れることがコンテンツ作成の重要なポイントになっています。
相続や資産承継を計画するためには、信託だけでなく様々な法律や税制を考慮した対策が必要になります。結果的に、信託を使わないプランをおすすめすることもあります。
【2500万円以下の預金】
相談内容:同居の母親の認知症が心配です。財産は、銀行預金1500万円です。
これが凍結すると困るので、民事信託をしたい。
父親の相続時に遺産は母親が全て取得しました。相談者は母親と同居して面倒見ています。母親の年金は少なく、預金を5万円/月ほど取り崩しているので、預金が下ろせなくなると困る。母親は今は認知症ではないけど、物忘れも多くなっているので心配ということでした。
この方には、相続時精算課税制度を使って1500万円を母親から相談者に贈与することを提案しました。
贈与税はかからずに1500万円を相談者の口座で管理することができます。
母親の口座には年金が入ります。こちらの口座も、相談者が使える代理人カードを作成し、引き出しは相談者がATMでします。
年金での不足分は相談者が贈与されたお金から補填します。
家は、相談者が住む予定ですので、遺言で相談者が取得することにします。評価額は800万円程度ですので、預金と一緒に贈与も可能ですが、登記費用(登録免許税・不動産取得税)が割高になるので、相続で手続きとします。
万が一、母親が認知症で判断能力が無くなったとき、銀行がそのことを知った場合には口座が凍結される可能性はあります。
しかし、民事信託をした場合でも年金口座は信託できませんから、条件は同じです。
口座が凍結されて生前贈与した1500万円を使い果たし、年金口座を解除しなければどうしようもないという状況になったときは「法定後見」を申立てる。相談者は、安定した収入もあり同居者でもありますから、後見人候補として申し立てをすれば後見人として選任される可能性もあります。専門職後見人が選任されたときの報酬は財産額によりますが、年金口座の残額のみですので、最低限の報酬となります。
【一人っ子、金銭的余裕あり】
相談内容:東京に住んでいます。親が高齢なので、長崎の実家が空き家になったときすぐ処分できるように民事信託したい。
相談者は、金銭的な余裕はあり親の財産が凍結したとしても経済的には問題ないようです。
ただ、離れて暮らしており長崎に戻ることはない。親が、施設に入るなどして空き家となったときには、なるべく早く処分して近所迷惑にならないようにしたいとの意向でした。
相談者が帰省したときに、ご両親とともに面談してお話しを伺いました。
・両親は80歳になるが、現状認知症の兆候はない。
・両親は共働きだったため、財産は半分ずつ所有している。自宅も持分1/2ずつ。
・相談者は一人っ子。
・両親は、家の名義を変えることに少し抵抗感がある。
両親ともに元気でした。高齢ですので、体は弱っていきますが、一定期間は元気な方が在宅で介護することで何とかなるでしょう。二人ともに弱ってしまったら、施設入居を考えなければなりませんが、そのときは近くの施設を検討するようです。
二人とも施設に入った後、相続発生するまでは実家は空き家の状態で管理しなければなりません。このことが、相談者の心配です。
当事者の意見をお聞きし、何もしないことを提案しました。
・一人っ子なので相続財産は相談者が取得することになる。
・長期間空き家の状況になる可能性は低い。(10年になる事は無いと想定)
・空き家期間中は、業者を使って環境を保全し、相続したらすぐに処分できる。
・両親の心情を考慮して、名義変更は相続後が良い。
【様々な選択肢を持つ専門家に相談することがポイント】
民事信託を依頼したいという相談者に、信託を勧めなかった事例を紹介しましたが、逆のパターンもあります。
遺言をしたいという相談者の要望が遺言では実現できないので、信託を提案する例などです。
専門家以外で、相続や資産承継に慣れている方は多くありません。
相続や資産承継は、法律や税制など幅広い知識が必要です。
長崎では、法律や税務の専門家でも民亊信託を取り扱っていない事務所が多い。
民亊信託を含めて、いろいろな選択肢を提案できる専門家に相談するようにしてください。